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黒字倒産をしないためのポイント

黒字倒産の仕組み

『利益が出ているから大丈夫』と安心できません。利益が出ていても、黒字のまま倒産するということは多いです。普通は赤字の会社が倒産するというイメージですが、どのような仕組みで黒字倒産になるのかをみていきたいと思います。

貸借対照表と損益計算書だけでは分からない

貸借対照表は、『ある一定時点の財政状態を示す』、損益計算書は、『1年間の経営成績を示す』と言われていますが、イマイチピンとこないでしょう。
『利益』は損益計算書上、『収益(売上)』-『費用』=『利益』の計算式で算出されます。黒字倒産は、その『利益』が出ているけれども、資金繰りが悪化し倒産するということです。という事は、『利益』だけ見ていても『資金』(=キャッシュ)の動きを把握しなければ倒産することがあるという事になります。この仕組みについて、以下①と②のパターンにより『資金繰り悪化』をもたらしますので注意が必要です。

①商品を売ったけど、取引先が中々入金してくれないパターン

取引先からの入金が遅れ資金繰りが悪化する例

②商品を仕入れたけれど、中々売れず在庫だけが増えるパターン

商品が売れず在庫が増えて資金繰りが悪化する例

手許にキャッシュがない場合は、自社でなんとか資金繰りを考えないといけません。自社として売上代金を早期に回収するため、相手方に支払の緩和条件等を付ける場合は、商品は早く売れますが、入金がない状態が続いてしまいます。つまり、売って利益は出ますが、キャッシュは手元にない状態です。そのため、キャッシュがない、そして支払も不能になる、という悪循環をもたらします。このようなことから『利益』が黒字でも、資金繰りが悪化し、倒産になってしまうケースがあるという事です。
しかし、売上を伸ばさずして会社の成長はありません。売上を伸ばしつつ、売掛金残高に気を配る必要があります。一番効果的なのは、現金商売を増やすことですが、近年はキャッシュレスの時代になってきているため、入金が後回しになるケースが多いです。そのため、よりキャッシュの残高の重要性が増しています。有効策をいくつか挙げてみたいと思います。


黒字倒産を防ぐために何が必要なのか

①前受金をお願いしてみる

これは、相手先の状況にもよりますが、可能であれば前受金を頂戴できますかと、お願いしてみるのも有効です。金額が大きくなればなるほど、この策は有効です。

②売掛金台帳を作る 

取引先ごとの売掛金をExcelシート等でまとめ、取引年月日、売上額、回収、一部回収、売掛金残高、回収予定日等を一覧表でまとめ、売掛金の残高が増加しないように気を配る。クラウド会計の債権債務の自動管理機能も便利です。

③在庫を増やさないようにする

売上を伸ばすためには、仕入は必須です。しかし、仕入過ぎて売れずに在庫になってしまうと、支払ったのに入金がない状態になるため、在庫の管理には気を配る。

④利益とキャッシュのタイムラグに気を付ける

これまでも述べてきたように、売掛金の回収は早いに越したことはありません。損益計算書上の『利益』とキャッシュは、ある一定期間は、一致しません。
一致しない期間のタイムラグについて、ご興味ある方は、下の例と図をご覧ください。

(取引例)

1月 商品を1,000円を掛けで仕入れた。

2月 ①仕入れた商品代金1,000円を預金から支払った。 ②商品を1,500円で掛けで販売した。

3月 売上げた商品の代金1,500円が振り込まれた。

この場合の損益計算書の利益とキャッシュに着目してみてください。

利益とキャッシュの違い1

 

利益とキャッシュの違い2

3月で初めて、『利益』とキャッシュが一致しました。つまり、利益とキャッシュの動きは一定期間は一致しない時がある、ことが分かります。


まとめ

日々の帳簿付けの習慣が大切です。そして黒字倒産を防止するためには、利益を出しつつ、在庫と売掛金の回収に気を配り、キャッシュフローを把握することが大切です。また、クラウド会計を導入し、預金、クレジットカード、ECサイト等は自動連携を行い、スムーズな記帳業務を行いますと、よりリアルタイムに直近の状況を把握することが可能です。日々の経理をきちんとこなせば、会社の意思決定も早く、会社にとってより有益な情報を得ることが可能です。

追記

法人の場合には、繰り戻し還付という制度があります。資本金1億円以下の普通法人が、前年の黒字を、今期経営が悪化して赤字になったような場合、前年に納付した法人税の還付を受けることができるというものです。(法人税法第80条)。黒字倒産のような事態に陥る前にこのような制度を利用するのも有効かと思います。
なお、平成4年(2009年)に改正された、租税特別措置法第66条の13の欠損金の繰戻し還付が令和6年3月31日までに終了する事業年度まで適用可能です。

繰戻し還付制度・・・青色申告書である確定申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合(以下、この事業年度を「欠損事業年度」といいます。)において、その欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度(以下「還付所得事業年度」といいます。)に繰り戻して法人税額の還付を請求することができます。No.5763 欠損金の繰戻しによる還付|国税庁 (nta.go.jp)

☆繰戻し還付は、法人税のみの制度である点と、法人事業税、法人住民税の適用はありません。また、還付には税務調査のリスクが伴う点も注意点です。


税理士 野﨑梨沙

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